大阪観光コンシェルジュ vol.12
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04俺はずいぶん長いあいだお店の取材をしてきた。始めたのは40年以上前で、その当時よく売れて飛ぶ鳥を落とすような勢いがあった「ホット・ドッグ・プレス」という雑誌で書き始めた。その当時の「ホット・ドッグ・プレス」は20代向けの遊びのマニュアル的な雑誌で、デートで行くべき店やモテる服、二人で食べたい料理やホテルなど今思えば下世話なネタが多かった。 そんなことから始まったがいつのまにか街の店をたくさん紹介している雑誌が売れるようになり、俺は毎日怒涛のように店取材をしていた。もともと10代の頃から遊びまくっていたしお好み焼きやラーメン、鉄板焼きや焼肉、中華に洋食の店やバーやディスコなどの夜の店もたくさん知っていたので、いろんな雑誌から依頼が来た。それから10年くらいで取材した店の数は少なく数えて延べ1万軒以上になる。 そして35歳くらいの頃からは店を取材することはなくなったけれど、街で飲むことの必要性や飲む理由、居酒屋でのスタンスやココロの揺れ、学区ごとに違うお好み焼き屋の文化やうどん屋の中華そばとスポーツ新聞の関係性などを新聞社や出版社の要望によって書かせてもらってきた。大阪市北区堂島1-5-40 今回は街場のバーの結晶のような店について書くことになった。「堂島サンボア」だ。北新地の四ツ橋寄り、いわゆる堂島辺りの路面にこの店はある。外の壁面はレンガと重みのあるドアとフレームが黒光りした窓、そこにピカピカに磨かれた真鍮のプレート。それだけでも充分趣きを感じるがドアを開けて中に入るとさらにテンションは上がる。 ここで初めて飲んだのは40年前。街の先輩に連れてきてもらった。その時は先代のマスターがおられてずいぶん緊張した。その時、着ていた自分の服を見てがっかりしたのを今も憶えている。それから無理をしてでもこのバーに来て飲むようになった。出来るだけ店開けの5時を目指して行って、バックバーをはじめ店全体が見事に磨き上げられていてキリッとした空気の中で一杯目を飲ませてもらう。すると一杯目に口をつけたあとその日その日で思うことが違うことに気づいた。この日はなぜか「すべてのことには理由がある」と思った。前に来た時は「黄昏に飲むのが好きな俺自身が黄昏てきた」とコースターの裏に書いていた。ちょっと話が脱線した。 それにしてもこのバーは大阪というかこの国の宝だと思う。こんなバーはまずない。観光客あふれる錦市場の京都漬物店店主であり、酒場ライター。健康診断での血糖値高めの指摘以降、健康に気遣って焼酎党……とはいえ飲み歩く日々。日本を食べまわる写真家。揚げ物に餃子など、「うまいもんは茶色い」がモットーでありながら、朝食はヨーグルトにはちみつ、フルーツが定番。真鍮の輝きだけではなく、店自体が黒光りしているバーが、大阪にはある。バッキー井上ハリー中西バッキー&ハリーの〈堂島サンボア〉地団駄はツイストで

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