大阪観光コンシェルジュ vol.11
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02 朝から豚足を、豚足だけを、食べさせてもらえる店があるというのは夢のようなことだと思う。 しかし大阪の難波には「豚足のかどや」という店が現実にある。しかも開店直後から人がなだれ込み20人以上座れるほどの長いカウンターも、店の外のテーブルも含めると5〜6台あるテーブルも一気に賑やかになり試合開始のゴングが鳴っているような気がする。 そしてほぼ全員がビールと名物の豚足を注文するとアルマイトに盛られた豚足が湯気とともに次々カウンターに並ぶ光景と雰囲気は、この世界でも生きていてよかったとあらためて思わせてくれる。 地下鉄なんば駅の北西の出口から地上に出て国道1号線から細い道に入ると高々と積み上げられたビールケースが目に入る、それが「豚足のかどや」だ。 そして店を守る城壁のようになった入口の左右に積み上げられたそのビールケースのセンターから独特の空気の中に入っていく。 試合開始のゴングと書いたがその始まりのゴングは人それぞれで違う。「今大阪市浪速区難波中1-4-15 南松竹マンション1FText by バッキー井上京都漬物屋店主で酒場ライター。健康診断で血糖値高めを指摘され、最近は日本酒を控えもっぱら焼酎党。ぽっこりお腹も凹んだとか。日は休みや、腰据えて飲も」のゴングもあれば「昨日もきつい旅になったし今日は食べて早よ帰ろ」も「もうどうとでもなれ」と昼前に豚足を見つめて飲んでいる人もいるだろう。 ひとりひとりにいろいろなことがあり、それを肯定したり嘆きたくなったり忘れようとしたりとそれに対する考え方もそれぞれだ。言い換えれば「事情いろいろ×対応それぞれ」なので美味しい豚足で酒を飲む動機は何万になる。 また、この店は時間によって表情が移ろう。開店直後は待ちに待った感じの気合いの入った面々が多いし、昼下がりから夕方は昼呑みを生活の軸にしている年配の酒呑みや豚足好きの女性のひとり客が多い。夜は声の大きい背広チームやボルテージの上がった人達が多いが意外と品の良さそうなカップルが仲良さそうに豚足を食べている光景もよく見かける。 同じような種類や動機の人ばかりがSNSによって集まる流行りの超人気店では決してその人の歴史に残ることはないが、老若男女事情さまざまな人がなだれ込むような店でこそ、たいそうに言えば人を救えているんだと思う。あえてオーバーに言えばそこからしか文化は生まれることはない。 そんな俺のつまらない言い草にこの店で働く人達もお客さんもたぶんこう言うだろう。「アホらしわ、ほんでお客さん飲みもんと豚足はどうすんの」。 最高である。あー、というしかない。Photo by ハリー中西日本を食べまわる写真家。揚げ物に餃子、丼など茶色い食べものを愛する一方、酢や納豆など発酵食品にハマる健康意識高めの一面も。8888豚足と酒に集う店でこそ、歴史に残る文化は生まれる。バッキー&ハリーの〈豚足のかどや〉地団駄はツイストで

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