京都観光コンシェルジュ vol.20
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05 糸ちゃん、店名である。60代後半に突入した私が今も大好きな店だ。実は大好きな店があることはとてもシアワセなことで、たいそうな言い方をすればそれは街で暮らす者にとって大変恵まれたことだと若い頃から思っている。特に50代後半になってからは好きな店に行き続けたいために生きているのではないかと思うくらい生活の比重がかかっている。 俺は生まれてから一度も京都以外の街で暮らしたことがないので、おかげさまで京都には子供の頃から今も通い続けている店(50年以上)が10軒近くあるし、大人になってからヘビーローテーションで通い出したバーや酒場や居酒屋で今も頻繁に飲みに行っているところは絞り込んでも数十軒はある。京都だけではなく東京に行けば神田の「みますや」や銀座の「泰明庵」、名古屋は「大甚本店」、大阪のキタは「堂島サンボア」でミナミは「かどや」や「バー・ウイスキー」、神戸は「別館牡丹園」や「ローハイド」などその街に仕事や何かで行けば必ず行く店がある。 顔見知りになり挨拶していただける店もあればそうでない店もある。自分のことを知ってもらえていることや馴染み扱いしてくれることなどが重要なのではなく、京都市下京区東之町17好きな店がそこに在ってくれること、湯気や煙や料理や酒の匂いとともに店の人やお客がいてくれることがシアワセの大きな大きなパーツなんだと思う。 そして今回紹介させていただくのが京都駅の八条口の近くにある「糸ちゃん」だ。朝の10時に店が開くと同時にまずは店の近所の人たちがやってきて、名物の「鍋焼きうどん全部入り」を注文する。麺は京風の細うどんでダシも抜群の加減。そこに海老の天ぷら、すじ肉、かしわ、卵に九条ネギがどっさりと入り摺り下ろしの土生姜が多い目に添えられた鍋焼きうどんが一番人気だ。昼前くらいからはこの店のもうひとつの名物であるミノ天とレバ天を注文してビールを飲みに来る人が増えてくる。他にも天肉や牛のあご肉を炒めたものやおでんも抜群に美味しいので、京都の料理屋の親父さんや映画や球場やどこかで見たことのあるような人達も昼から静かに飲んでいるし、その中で学生さんがスジカレーうどんでごはんの大盛りを頬張っている。 漬物店を営んでいる私の場合は、早朝から漬け込み作業をして昼から錦市場の店に戻る途中にこの店があるので昼前か昼過ぎに週に1度はこの店に寄ってしまう。 そ していつまでもきれいなお母さんと娘さんの笑顔とお客さん達の活気に包まれて、全部入りの鍋焼きうどんを食べさせてもらう。なんだかシアワセ自慢をしているような原稿になった。それでいいと思う。あー。京都の漬物屋店主で酒場ライター。健康診断での血糖値高めの指摘以降、変わりなく、もっぱら焼酎党。漬物屋に立ち、近所を飲み歩く日々。日本を食べまわる写真家。揚げ物に餃子、丼など「うまいもんは茶色い」がモットー。連ドラ好きで毎クールひと通りパトロールするのがお決まり。この店があってシアワセだと思う。でもどんな文章もこの写真には勝てない。バッキー井上ハリー中西バッキー&ハリーの〈糸ちゃん〉地団駄はツイストで

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