京都観光コンシェルジュvol19
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03 京都には観光で来られる人が最も多いが、仕事で来られる方も多い。けれども京都で暮らしている私が羨ましいなと思うのは、観光でも仕事でもなく京都にただ飲み食いするためだけにくる人だ。顔や声が楽しそうだし明るいし、何より満足そうにしている感じがして近くで飲んでるこちらも酒や食が自然にすすむ。 私も釜山やソウルや台北、大阪や東京や博多に飲み食いだけのためによく行く。最も気に入っている釜山には年に6回以上は行って朝早くから夜の10時11時まで毎日5、6軒、ひどい時には10軒くらい飲んだり食ったりする。観光をするときもあるがそれは行く店の近くか道中にたまたま気になる名刹や建築物があって間が合えばの話だ。 今回紹介するこの店は錦市場のすぐそばにあり朝8時から営業している本気の酒場というか食堂で、地元のお客さんと京都以外から飲みに来ているお客さんが半々くらいで客層も80近い人から20代30代の人まで幅広い。 しかもひとりかふたりで午前中から飲みに来ているレディが多いので俺は不安になる。なので俺は彼女達を見ないし決して話しかけることはないが話075-256-3124/京都市中京区錦小路西入ル東大文字町288Text by バッキー井上京都の漬物屋店主で酒場ライター。健康診断での血糖値高めの指摘以降、変わりなく、もっぱら焼酎党。漬物屋に立ち、近所を飲み歩く日々。してこられたらシアワセな顔で応える。 食事をする店はとてもデリケートでいることが大事だと思うが、さまざまなことに臆しているより平然として飲んで食べるのが店も他の人もそして自分自身も落ち着けるし、たまに失敗したとしても嫌われたとしてもそれはそれでいい。 話がずれた。この店の話だった。朝や昼下がりからきちんとした日本酒や焼酎やウイスキーを飲んで、酒を飲む奴の欲しいものを知ったかのような納豆オムレツや香辛料の効いたポテサラやさつま揚げをアテにしながら飲んでいると、先送り人生さえ肯定してしまえる。 家と職場ともうひとつの場所のことをサードプレースというようになったらしい。そしてサードプレースが必要で心的に重要だと書いている本もあるが、俺はそんなことは小学生の頃から体験している。家と学校ともうひとつの場所が大事だった。駄菓子屋の奥のお好み焼き台であったり、寺の縁側の下であったり、大学生の下宿の押し入れなど、誰もが子供の頃からもうひとつの場所が必要だった。 この「錦市場食堂・高倉屋商店」という店は客の器量によって店の価値が上下する店だ。京都以外で一度も暮らしたことのない俺にはわからないが、東京で住んでいたら飲み食いだけのために京都に定期的に来ると思う。 そして朝か昼下がりはこの店で飲み食いすると思う。Photo by ハリー中西日本を食べまわる写真家。揚げ物に餃子、丼など「うまいもんは茶色い」がモットー。連ドラ好きで毎クールひと通りパトロールするのがお決まり。4747朝8時からきちんと飲めて美味しいおかずのある店が中心部にある。バッキー&ハリーの〈錦市場食堂 高倉屋商店〉地団駄はツイストで

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